小児漢方について
当院では、積極的に漢方薬を用いた治療を選択しています。
漢方薬と聞くと「長く服用しないと効果が発揮されないのでは?」と思われる方もいらっしゃるのではないでしょうか。しかし漢方薬は長い歴史の中で、急性疾患の治療としても活用されてきました。そのためすぐに効果が得られるものも少なくありません。東洋医学は、患者様の身体が元々持っていた自然治癒力を引き出そうとする考えで成り立っています。場合によっては、お子さんの身体に優しい治療の選択肢にもなり得るのです。
漢方には体がもっている治癒力を助ける役割があります
漢方は中国から伝わったもので、日本独自の発展を遂げてきた医学です。自然界にある草や木、動物などから作り出し「身体が元々持っていた自己治癒力を呼び覚まそう」という考えに基づいています。
この思想をうまく西洋医学と一緒に取り入れて相乗効果を得ることで、疾患が治りやすくなったり虚弱体質が良くなったりしていきます。
例えば、風邪の多くはウイルスによる感染症ですので、西洋医学の抗菌薬などではなかなか治りません。
そのため一般的な治療では、熱さまし薬や咳止め薬、痰切り薬などを用いて、対症療法を行って症状を抑えながら回復するまで待ちます。しかし、ここに気道粘膜の消炎効果を持つ漢方薬を活用すると、より早く改善されることも期待できます。
また「何度も熱を出す」「お腹をこわしやすい」「免疫力が弱くて何度も感染してしまう」といったお子さんには、適切に漢方薬を処方することで、虚弱体質が改善される可能性もあります。
漢方薬が適用される疾患
漢方の世界では、「ハッキリした病気ではないが、なんとなく具合が悪い、モヤモヤする状態」を「未病」と呼んでいます。また虚弱体質で、具体的な疾患をわずらっている状態とも言えないが、「頻繁に風邪をひく」「お腹をこわしやすい」状態も「未病」と言えます。そういった症状だけに留まっていると、「病院へ行くほどじゃないな」と受診をためらってしまうかと思われますが、「未病」という考え方とそれに対する処方がある漢方薬でしたら、改善できる可能性があります。
さらに、漢方の世界では「証」という考え方が存在します。
「証」とは、その人の体質や全体的な症状などを表すものです。
それらの情報を総合して「証に合った漢方薬」をお出しします。
そして、健康な方にはまずいと感じる漢方薬でも、証に合うと美味しく感じやすくなることもよくあります。
そのため「まずくて子どもが飲みたがらない」というケースもあまりありませんし、飲ませ方に工夫することも可能です。
加えて、漢方薬は副作用が少ないというメリットもあるため、赤ちゃんにも処方できます。
漢方が効きやすいケースを下記にまとめております。記載されていない症状でも、漢方薬が効く症例はありますので、気になる方はお気軽にご相談ください。
- 風邪などにかかりやすい虚弱体質
- 風邪やインフルエンザなどといった、ウイルス感染からくる咳や鼻水、発熱、中耳炎などの症状
- 下痢や便秘、胃腸炎、過敏性腸症候群などの疾患や、ひんぱんにお腹をこわす体質
- 湿疹や蕁麻疹
- 水いぼ
- アトピー性皮膚炎や気管支喘息、鼻炎などといったアレルギー性疾患
- 起立性低血圧や頭痛、睡眠障害、思春期に現れる神経の高ぶりなどといった精神神経症状
- 生理痛
- 頭痛
- 赤ちゃんの鼻づまり
- 夜尿症
当院で処方する漢方薬
漢方薬 | 特徴・改善に期待できる症状 | 成分 |
---|---|---|
葛根湯(かっこんとう) | 風邪のひきかけなどに有効 | 葛根、芍薬、麻黄、甘草、桂皮、生姜、大棗 |
麻黄湯(まおうとう) | 風邪のひきかけや鼻づまり、頭痛などに有効 | 麻黄、甘草、桂皮、杏仁 |
小青竜湯(しょうせいりゅうとう) | 鼻水が多い時などに有効 | 桂皮、芍薬、麻黄、半夏、甘草、五味子、細辛、乾姜 |
五苓散(ごれいさん) | 下痢や嘔吐、急性胃腸炎などに有効 | 桂皮、蒼朮、茯苓、沢瀉、猪苓 |
麦門冬湯(ばくもんどうとう) | 咳止め・痰切りなどの効果に期待できる | 人参、甘草、麦門冬、半夏、粳米、大棗 |
補中呑気湯(ほちゅうえっきとう) | 風邪や疲労、胃腸が弱いといった症状・体質に有効 | 甘草、生姜、人参、蒼朮、黄耆、当帰、陳皮、大棗、柴胡、升麻 |
小建中湯(しょうけんちゅうとう) | 腹痛や夜尿症、虚弱体質などに有効 | 芍薬、桂皮、大棗、甘草、生姜、膠飴 |
甘麦大棗湯(かんばくたいそうとう) | 夜泣きやひきつけに有効 | 甘草、小麦、大棗 |
抑肝散(よくかんさん) | 夜泣きやかんしゃくなどに有効 | 当帰、蒼朮、川芎、茯苓、柴胡、甘草、釣藤鈎 |
漢方薬の上手な飲ませ方
西洋医学の薬は比較的飲みやすいのですが、漢方薬の場合は、なかなかお子さんにとって馴染みにくい味かと思われます。子供が苦い薬を飲むとは思えないですよね。しかし、そこには工夫次第で美味しく飲む方法があるのです。子供が苦い薬を飲むとは思えないですよね。しかし、そこには工夫次第で美味しく飲む方法があるのです。
お子さんがどのように薬に反応するかは年齢によっても違いますので、まずは年齢別の傾向を知ることが大切です。
乳児期(0~1歳) | 比較的飲ませやすい |
---|---|
幼児期(2~5歳) | 薬に対する感じ方が敏感で、しばしば服薬を拒否することがある |
学童期(6歳以降) | 漢方の必要性を理解すれば比較的飲ませやすい |
飲み方のポイント
- 最初は飲みやすい漢方薬から
- 量は飲める分だけで、少しでも飲めたらOK
- 飲むタイミングはいつでも飲みやすい時に(基本は食前ですが、いつでもOK)
- 飲めたら大げさに褒める!
①甘みがある漢方薬から試してみる
漢方薬に対する抵抗感があるお子さんには、甘みのある漢方薬から試してみるのも一つの方法です。漢方薬の中には、苦味が少なく甘みが感じられるものもあり、子供たちにとっては飲みやすいものもあります。
具体的には、以下のような漢方薬が比較的飲みやすいとされています。
- 黄耆建中湯(おうぎけんちゅうとう)
- 小建中湯(しょうけんちゅうとう)
- 甘麦大棗湯(かんばくたいそうとう)
- 芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう)
- 麻黄湯(まおうとう)
- 六君子湯(りっくんしとう)
- 桔梗湯(ききょうとう)
②味付けを工夫する
漢方薬の味を柔らかくするために、様々な調味料や飲食物を使用して工夫することもおすすめです。以下にいくつかの方法を紹介します
- 漢方薬を適量のお湯で溶かし、砂糖やココア、麦芽飲料、ハチミツ、アイスクリーム、ヨーグルトなどに混ぜる。この際、ハチミツはボツリヌス菌が含まれる可能性があるため、乳児には与えないでください。
- ココアや抹茶、コーヒーなど少し苦味があるものと混ぜると、それらの味と香りが漢方薬の苦みを相殺し、飲みやすくなります。ココアが好きなら最強の漢方マスクアイテムです。
- アイスクリームやヨーグルトなど冷たい飲食物は味覚を鈍化させ、苦みを感じにくくする効果があります。ただし、お子さんが風邪を引いていたり、胃腸が弱っている場合には、暖かい飲食物に混ぜて与える方が良いでしょう。
- ドラッグストアで販売されている白糖シロップに混ぜるのも一つの方法です。
重要なのは、お子さんが楽に漢方薬を飲むことができるよう、一緒に工夫を重ねることです。漢方薬の味に抵抗感を持つお子さんには、上記の方法をぜひ試してみてください。
「漢方薬と混ぜるもの」
処方箋で処方できるもの
- マルツエキス
- 単シロップ
- 西洋薬
おかず
- カレー
- スープ
- 味噌汁
- マヨネーズ
- のりの佃煮
- たこ焼きソース
おやつ
- アイス
- ヨーグルト
- 練乳
- ジャム
- あんこ
- はちみつ(1才以上)
- チョコクリーム
調理過程で混ぜるもの
- ホットケーキ
- クッキー
- ゼリー
- ハンバーグ
飲み物
- ぶどう・りんごジュース
- カルピス
- ヤクルト
- ココア
- ミロ
服薬補助剤
- 服薬ゼリー
- オブラート
特におすすめ組み合わせ
小建中湯(しょうけんちゅうとう) 黄耆建中湯(おうぎけんちゅうとう) |
マルツエキス |
小青竜湯(しょうせいりゅうとう) 葛根湯加川芎辛夷(かっこんとうかせんきゅうしんい) 五虎湯(ごことう) 麦門冬湯(バクモントウ) |
カルボシステイン、アンブロキソール |
小建中湯(しょうけんちゅうとう) 黄耆建中湯(おうぎけんちゅうとう) |
ミロ |
抑肝散 | コーンスープ |
小青竜湯(しょうせいりゅうとう) | マヨネーズ |